「悪韓論」第3回です。(第1回第2回
 

スポンサードリンク


室谷氏の『悪韓論』の第3章では「就職浪人大国の悲惨」と銘打ち、大学生やその就職状況について書かれています。韓国の留学熱について触れ、こう述べます。
 韓国人留学生は、どこの国に行っても、基本的に「現地韓国人社会」の中で生活する。そして、学校ではカンニングを常とし、見つかると「こんなことの、どこが悪い」と開き直る。そんなタイプが多いようだ。 (67頁)
韓国人留学生が「現地韓国人社会」の中で生活するというところはまだしも(事実かどうかは知りませんが)、彼らが「カンニングを常」としているなどと、なぜ室谷氏が知っているのでしょう。どう調べるというのでしょう? 韓国人留学生に「カンニングを日常的にしてますか?」などとアンケートを取ったとでも言うのでしょうか? もちろん何の根拠も示されていません。ここまで来ると室谷氏の「独断」や「偏見」ではなく「妄想」と呼ぶしかないでしょう。ここまで幼稚な妄想に基づいた誹謗中傷を、元時事通信のジャーナリストが行うとは驚かされます。室谷氏こそ、妄想で誹謗中傷して「こんなことの、どこが悪い」と思っているのでしょう。

さらに室谷氏はこう続けます。
 在ソウルの日本企業の事務所長から聞いた話だが、「米国留学経験有」と称する入社試験の応募者たちに「米国の田舎町を旅行した時に感じた不可思議なことを英語で話してみてください」と言ってら、全員「滞米中に田舎には一度も行かなかった」と答えたという。(67頁)
一体室谷氏はこのエピソードで何が言いたいのでしょう? どうも文脈から判断すると、「韓国人は留学しても現地の人たちではなく韓国人社会で生活する」という証拠の一つとして出して、それを非難したがっているようなのですが、滞米中に田舎に行かなかったことが何だというのでしょう? 私も某A国に1年間留学経験がありますが、田舎町に旅行などしませんでした。

確かに、留学したら自国の人間同士ではなく現地の人と交流して現地社会に浸かるのが良いと思いますが、室谷氏の脳内では田舎町を旅行しないと現地に溶け込んでいないことになるのでしょうか? 室谷氏の論理展開は、出してくる根拠が「だから何?」というものであることがしばしばあります。結局自分の結論に合いそうなものを、自分に都合のいいように解釈して引っ張り出してくるだけなのでこういうことになるのでしょう。

また、韓国人留学生が語学研修先のフィリピンで現地女性との間に子供を作って放置する「コピノ」(Korean+Filipino)問題や、ベトナム戦争時の韓国兵とベトナム人女性との間の「ライタイハン」問題にも触れています。日本人が口を出す問題ではないかとも思いますが、もちろんこれらは大きな問題で、看過されていいものではありません。韓国の「悪」い点の大きな一つだと言うことができるかも知れません。しかし、室谷氏はなぜかこの話をこんな一文で締めくくります。
どなたか、慰安婦が日本兵の子供を産んだという話を聞いたことがありますか。(69頁)
ここで唐突に慰安婦を持ち出してきました。室谷氏は一体何が言いたいのでしょう。日本のやったことなど韓国に比べれば大したことないと言いたいのでしょうか。それとも、韓国が自分たちの問題を棚上げして日本を非難していると言いたいのでしょうか。何にせよ、コピノ問題はコピノ問題、慰安婦問題は慰安婦問題であるはずで、全く別の話です。韓国にコピノ問題での反省を促すのは構いませんが、それで慰安婦問題がどうなるわけでもありません。室谷氏が慰安婦問題をどう考えているのか知りませんが、「解決済み」なら根拠を示して「解決済み」だと言えばいいし(外務省はそうしてます)、そもそも「問題ない」なら根拠を示してそう言えばいいだけです。室谷氏のしていることは、カンニングをした子供が「Aちゃんもカンニングした」と訴えて、自分のカンニング問題を矮小化しようとしているのと変わらない幼稚な感情論にすぎません。

北朝鮮シンパであるデヴィ夫人は、北朝鮮による日本人拉致について、日本の韓国併合や所謂「強制連行」を引き合いに出して、「この人たちの子孫が拉致事件を起こしたとしても、日本は何か言える立場でしょうか」ととんでもないことを言っています(こちらの記事参照)。「強制連行」についてはさまざまな議論がありますが、日本が過去に何をやろうと、それと北朝鮮の拉致問題は全く別問題で、北朝鮮やそのシンパであるデヴィ夫人の言っていることが論理性の欠片もない問題矮小化のためのデタラメであることは言うまでもありません。コピノ問題やライタイハン問題の話に、突然慰安婦問題を持ち出してくる室谷氏の手法も大して変わりありません。室谷氏は韓国を繰り返し北朝鮮になぞらえますが、室谷氏も偉そうなことは言えそうにありませんね。

次に、室谷氏は韓国大学生の就職率低さを指摘します。日経ビジネスオンラインを見ても、韓国の大卒生の就職率は55%前後のよう。ちなみに日本の大卒生の新卒採用率は6割強です(日経ビジネスオンライン)。そのことについて室谷氏はこのように述べます。
 2000年代に入ってから毎年、大学卒業者のうち、就職浪人の悲哀を味わうことなく就職できたのは、ほぼ半数だった。
 「サムスン電子、現代自動車を筆頭に、世界各地で日本勢を撃破する韓国経済」といった"日経調の報道記事"にならされた日本人には信じられないことに違いない。
 しかし、事実は事実だ。(72頁) 
事実は事実です。だが、それならサムスンや現代がシェアを伸ばしているのも事実です。何も「日経調」でも何でもないと思いますし、今私が紹介した韓国の大卒生の就職率の低さについて触れた記事も日経の記事なんですけどね。日経こそ単に「事実は事実だ」と紹介しているだけだと思うのですが。

室谷氏は韓国のニート率の高さも指摘し、韓国のニート率は日本の4倍だと言います。これらの事実を根拠に
「韓国に学べ」と言う日本のマスコミは何を狙っているのだ。(77頁)
と述べます。まるで日本のマスコミが日本を堕落させようと画策しているかのような書き方ですね。室谷氏も「日本のマスコミは反日だ」などというタイプの人なのでしょうか?

もちろん、就職率の低さやニート率の高さなどは真似てはなりません。しかし、「学ぶ」ことと「真似る」ことは必ずしも同一ではありません。韓国勢がテレビや半導体や車など、日本のお家芸だった分野でシェアを伸ばしている事実が存在する以上、何故彼らがシェアを伸ばすことができたのか、彼らの手法を知ること自体は必要なことでしょう。孫子の時代から「敵を知る」ことは重要なことです。室谷氏はサムスンや現代がどうやってシェアを伸ばしているのか、肝心のところを説明していません。

私個人はサムスンやLGなどの製品は絶対に買わず、家電は日本製以外使わないのですが(特にソニーと東芝)、サムスンが異常と言えるほど世界で売れているのは確かで、フォーブスの「世界の価値あるブランド」ランキング2014ではなんと世界8位で、トヨタの世界9位を超えてアジアのブランドでは1位になっています。ちなみにホンダ20位、キャノン67位、日産68位、現代71位、起亜80位。

「韓国に学べ」と言っている人がいるなら、それは韓国の大卒就職率が低かったりニート率が高かったりするからではなく、「サムスン電子、現代自動車を筆頭に、世界各地で日本勢を撃破」しているからでしょう。彼らの手法を学んだうえで「こりゃダメだ」と思ったのならいいんですが、それをせずに、肝心なところを見ないで大卒就職率などの別問題を見て「韓国に学ぶとこなし」と言う室谷氏の論法はジャーナリストとして失格と言わざるを得ません。

そして室谷氏は韓国の学歴過剰大国ぶりをこう表現します。少し長いですが引用してみます。
 70年代は、就業者中の大卒者比率が1割未満の時代だった。大手財閥総裁の中にも、旧現代グル―プの鄭周永氏のように、小学校もロクに出ていない人がいた。大手財閥系でも、高卒社長は珍しくなかった。
 しかし、高級官僚は既に大卒者が独占していたし、財閥系各社の経営陣も次第に大卒の比率が高まっていた。そして、80年代半ばから大学進学率が飛躍的に伸び、さらに90年代後半からは、誰もが大学に入ろうとする時代になった。
 だが、エリートとは少数でなければ重用されないし、自尊心も満たされない。エリートが多数派になってしまったら、顕在化するのは非エリートに対する差別だ。
 私が見るところ、韓国の大学卒業者と、事実上の身分差別の関係は、次のように展開してきた。
 大学を卒業すれば両班になれる → 大学を卒業していないと両班になれない → 大学を卒業しないと奴婢になる。
 さらに、そうした動きの中で出てきたのが、より輝いて見せる材料としての「各種資格の取得」であり、「留学経験」だった。
 しかし、今や、どれも珍しいことではなくなった。だから、それらがなかったなら、逆に「欠格」として目立つ。
 それで大学生は、各種資格を取るため、あるいは「TOEIC○○○点以上」を目指して、アルバイトのかたわら塾に通う。さらに留学して、本意とする就職先に入れなければ大学院に行く ―「学歴大国」の現実だ。(73-74頁)
なんか日本の話をしているんじゃないかと錯覚してしまいますね。どれも日本に当てはまることばかりに見えます。しかし、室谷氏はここでまたも「両班」だの「奴婢」だのの言葉を用いることで、韓国の大卒者が前世紀的な歪んだエリート意識や差別意識を持っているという印象を読者に与えようとしています。室谷氏はとにかく韓国を恣意的に李朝や北朝鮮に結び付けたがります。じゃあ猫も杓子も大学に行こうとする日本の現状はどう説明するんでしょうね?

そして室谷氏はこのように韓国の大卒者を批判します。
 大卒者は、実はもう「石を投げれば当たる」存在でしかないのに、多くは高いプライドを持っている。「昔なら自分は両班なのだ」といった感じであり、高卒以下の人々やその職種を軽蔑している。(76頁)
大卒者が「昔なら自分は両班なのだ」と感じているなどというのは、室谷氏のただの印象や空想に過ぎません。室谷氏はこの本の売りだったはずの「韓国のマスコミや公式統計を利用する」という趣旨を忘れて閉まったかのようです。

さらにこう続けます。
 私が見るところ、韓国の大卒者には、この種の気位があるから、よほどひどい現実にでも直面しない限り、奴婢がするような職種、つまり、力を使い、汗と油で汚れるような職種には参入しようとしない。(76頁) 
大卒者が力仕事に就きたがらないというのは日本も同じだと思うのですが、またも室谷氏は「両班」だの「奴婢」だのの言葉を用いて、「韓国は李朝と変わらない歪んだ身分社会である」という「室谷氏なりの事実」を印象付けようとしています。

しかし、「韓国の大学生は自分を両班と見なしているから、奴婢がするような職種には就きたがらない」というのは、室谷氏が「自分見るところ」と断っている通り、あくまで室谷氏の考えに過ぎません。つまり、「力を使い、汗と油で汚れるような職種」を「奴婢がするような職種」と呼んでいるのは室谷氏自身に他なりません。韓国の大学生を批判しているはずが、室谷氏自身が歪んだ職業差別意識を持っていることが浮き彫りになっているのです。慶応法学部を出て時事通信社へ入社した室谷氏にも、「力を使い、汗と油で汚れるような職種」を見下すような気持ちがあったのでしょう。

室谷氏はこの『悪韓論』は、数字は韓国の公式統計やマスコミ情報を利用しても、結論はどれも室谷氏の印象論や歪んだ差別意識に基づいています。そして、この傾向は章を重ねるごとにますますひどくなっていきます。次回は第四章「短期退職者が溢れる国に匠はいない」について述べます。

にほんブログ村 政治ブログへ 
にほんブログ村 政治 ブログランキング
このエントリーをはてなブックマークに追加

人気記事ランキング

    (スポンサードリンク)
    注意:初めての方は「このブログについて」をお読みください。

    コメント

    コメントする

    コメントフォーム
    評価する
    • 1
    • 2
    • 3
    • 4
    • 5
    • リセット
    • 1
    • 2
    • 3
    • 4
    • 5
    • リセット
    「匿名」「あ」「(空白)」などの名前は他の人と重複する可能性が高いので使用しないでください。注意されてもやめない場合、「荒らし」行為とみなします。「名無し」「ななし」は禁止ワード設定になっています。